相続問題は、特に財産の使い込みが発覚した場合、複雑でデリケートな問題に発展することがあります。このページでは、亡くなった方(被相続人)の財産が生前に使い込まれた事例に焦点を当て、その対処法について詳細に解説します。
このページの目次
遺産の使い込みの事例と発見方法
遺産の使い込みにはさまざまなケースがあります。例えば、一番多いのは被相続人の預貯金の無断引き出しです。そのほかにも、賃料の横領、不動産の無断売却、株式の売却金の横領などが挙げられます。これらの遺産使い込みは、相続開始後でも被相続人の銀行取引履歴、不動産の契約書、株式の取引明細書などを通じて発見することが可能です。
どのような法的手段があるか
交渉
まず、遺産が使い込まれたり預金が引き出されたことを指摘して、他の相続人と交渉するという方法が考えられます。しかし、このような事件の場合、交渉で解決するということはあまり多くありません。また、交渉の過程で証拠が隠されてしまう危険性もあります。
訴訟
預金の無断引き出しや使い込みが発覚した場合、民事訴訟を起こすことが一つの選択肢です。この訴訟では「不法行為に基づく損害賠償請求」や「不当利得返還請求」が考えられます。
不当利得返還請求は、法律上の原因なく預金が引き出されたり、使い込まれた財産の返還を求めるものです。他方、損害賠償請求は、被相続人の意思に反して預金が引き出されたり相続財産が使い込まれたことに対し、不法行為だとして被った損害の賠償を求めるものです。
訴訟は証拠が集められた場合に有効ですが、時間と費用がかかることを考慮する必要があります。
遺産分割調停・審判
預金が引き出されたりしていた場合でも、遺産分割調停・審判を行うということも場合によってはあり得ます。この場合、合意があった預金の引き出しではあるが、一部の相続人に前もって相続財産が渡されていたということで、特別受益と扱って遺産分割を行うという方法です。
しかしながら、この方法が有効なのは、預金の引き出しなどを主張された相手方が、それを認めているような場合に限ります。
相手が引出しを認めていない場合や、金額などを争っている場合は、遺産分割調停・審判では不法行為や不当利得の問題は取り扱うことが基本的にできず、預金の無断引き出しや使い込みは遺産分割調停・審判の前提問題として訴訟で取り扱うことになっています。
訴訟を前提として行う必要がある
前述の通り、預金の無断引き出しなどを一部の相続人に対して追求する場合は、遺産分割調停・審判の前提問題として訴訟を提起しなければなりません。
すなわち、訴訟では遺産の範囲を扱い、引き出された預金などを遺産分割の対象に含めるか、持ち戻すかということを争うものです。
遺産分割調停・審判は、文字通り「遺産」の範囲が確定した後で、これを「分割」スル方法を決めるものです。
したがって、預金の無断引き出しなどの問題を扱う訴訟は、遺産分割の前提問題として取り扱われるべき問題であり、遺産分割よりも先に必ず行わなければなりません。
不法行為・不当利得の訴訟
遺産分割調停・審判
預金の無断引き出しなどに関するリスク
時効の問題
預金の無断引き出しや使い込みに関する訴訟には時効によるタイムリミットがあります。
不法行為に基づく損害賠償請求の場合は、損害や加害者の知ったとき(預金通帳の履歴から不正な出金や振込を知ったときなど)から3年、不法行為の実施(実際に引き出されたときなど)から20年の時効・期間制限があります。
また不当利得返還請求と構成したとしても、権利行使の認知から5年、権利行使可能時点から10年の期間制限があります。
時効が成立してしまうと、法的な手続きを取ることができなくなるため、早期の対応が必要です。預金が引き出されているかもしれないと気づいたら、早めに弁護士に相談することをお勧めいたします。
証拠の不足
訴訟を起こすためには証拠の提出が必要です。十分な証拠がない場合、法的手段による回収は困難となります。したがって、証拠収集は使い込み問題の解決において非常に重要なステップとなります。
証拠は誰かの証言などよりも、客観的な預金引き出し履歴や振込履歴、契約書などでなければ立証が難しいことも多いです。預金の無断引き出しや使い込みなどを立証するにはこれらの証拠を相続人や弁護士が収集する必要があります。
弁護士に依頼するメリット
証拠収集の専門性
弁護士は訴訟手続にも精通しているため、どのような証拠を集めれば十分かの予測を立てることができます。
たとえば、銀行の取引履歴などを取寄せることが一般的に必要とされていますが、前述の通消滅時効の問題があるため、専門家から具体的にどのような証拠集めをするかのアドバイスを早期に受ける必要があります。
法的アドバイスの提供
預金の引き出しについては、どのような事実をどのような証拠で立証し、法律構成としてどのような主張をするかということを十分に準備する必要があります。
そこで、弁護士に依頼することで適切な法的アドバイスを受け、どの法的手段が最も適切かの方針を適切に判断することができます。また、訴訟や調停などを代理人として行い、法的手続をスムーズに進めることができます。
交渉と和解のサポート
預金の引き出し問題は相続問題の一場面であるため、仮に訴訟となった場合でも、後の遺産分割を見据えて和解となることも多くあります。
この場面でも、弁護士などの専門家に依頼していることで、以後どのような戦略をとることを見据えるかを検討し、最終的な遺産分割で取得する相続財産についてのアドバイスを受けることができます。
また、専門家である弁護士が間に入ることで、感情的な対立を避け、合理的な解決を図ることができます。
最後に
相続における遺産の使い込み問題は、適切な対応を取ることで解決が近づきます。使い込みなどの証拠を集め、必要に応じて法的手段を講じること、さらに弁護士への依頼を検討することが重要です。