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不倫・浮気(不貞行為)をしていても慰謝料支払いが不要なケース
不倫や浮気の中で不貞行為があった場合、通常は一定の慰謝料を支払う義務が生じますが、中には不貞行為があっても、離婚の条件などによって慰謝料を支払わなくてもいいということがあります。
- 婚姻関係が破綻している
- 相手が既婚者だと知らなかった
- 不貞行為は実際にあったが、配偶者が十分な慰謝料をすでに支払っている
というようなケースです。
婚姻関係が破綻している
婚姻関係が破綻しており、もはや夫婦とはいえないような状態になっている場合、形式的には不倫や浮気であっても不貞行為の慰謝料を支払う必要はありません。
ただし、婚姻関係の破綻とはかなりハードルが高く、単に仲が悪いだけのいわゆる「家庭内別居」などでは認められないケースがほとんどです。
実際に婚姻関係の破綻が認められた事例は、以下のようなものです。
- 5年あまりの長期にわたり完全に生計を別にした別居をしている
- けんかの際に毎回包丁を持ちだして夫が妻を脅し屈服させていた
- 夫から鍵を取り上げて自宅に帰らせないようにし、共同生活を自ら壊した
相手が既婚者だと知らなかった
相手が既婚者だと知らなかった場合、不貞行為の故意や過失がなかったとして、慰謝料を払わなくてもよいケースがあり得ます。
ただし、単に「既婚者とは知らなかった」と言っているだけではこの主張は認められません。
この反論には故意だけではなく過失もないことが必要ですから、周辺の状況から見て「見ても既婚者ではないかと疑うのが通常である」というような状況であれば、「既婚者であることを知らなかった」という反論は通らないということになります。
たとえば、東京地裁平成30年5月25日の判決では、同僚と性交渉をした事案で、交際相手に幼い子どもがいたことを知っていたなどの事情を根拠に、通常は既婚者であるかどうかに関心を抱くようなケースだとして、「既婚者だと知らなかった」という反論を認めませんでした。
逆に、東京地裁平成29年2月10日判決では、肉体関係を持つにあたって、離婚して独身であるかどうかを聞いており、さらに交際を求めた頃には求婚されていたという場合は、「既婚者だと知らなかった」という反論を認めています。
いずれにせよ「既婚者だと知らなかった」という反論をするためには、それを裏付ける証拠が必要です。
- LINEのやりとりのスクリーンショット
- 会話や電話の録音
などは、可能な限り保存しておきましょう。
逆に交際相手に慰謝料を請求できることも
そして、自分は結婚するつもりで付き合っていたのに、既婚者だとだまされていたような場合は、むしろ交際相手に対して貞操権侵害で慰謝料請求をすることができるケースがあります。
すでに配偶者が十分な慰謝料を支払っている
不貞行為の慰謝料は二人で連帯して支払うべきとされる
別のページでも説明していますが、浮気や不倫は、不貞行為をした配偶者と浮気相手・不倫相手との共同不法行為であるとされています。
そのため、「二人で連帯して慰謝料を支払え」と請求できる権利が、不貞行為をされた人にはあります。
そして、不貞行為をした配偶者がすでに離婚していて、多額の慰謝料を支払っていることがあります。
この場合は、すでに連帯して支払うべき慰謝料が全額支払われていて、さらに不倫相手・不貞相手に対して請求できる慰謝料が残っていないということになります。
そのような場合でも求償請求されるリスクは残る
ただし、不倫をされた配偶者がさらに不倫相手・浮気相手に対して慰謝料を請求できないという場合でも、不貞行為をした側の配偶者から求償権の行使を受ける可能性は残ります。
先ほど述べたように、不貞行為の慰謝料は「二人で連帯して慰謝料を支払え」と請求される関係にありますから、責任の割合に応じて、すでに支払われた慰謝料の半額や一部を負担する義務が生じるのです。
離婚の条件として支払われた慰謝料の金額があまりに高い場合は必ずしも半額を支払う義務はないかもしれませんが、まったく誰にも支払わなくてよいということにはなりません。
もっとも、求償権の行使は必ずされるわけではありませんから、不貞行為をした配偶者が求償権の行使をしない場合、結果的に慰謝料をまったく支払わなくてもよくなったというケースはありえます。